昼食 (ベラスケスの絵画)

『昼食』
ロシア語: Завтрак
英語: The Lunch
作者ディエゴ・ベラスケス
製作年1617-1618年
種類キャンバス上に油彩
寸法108.5 cm × 102 cm (42.7 in × 40 in)
所蔵エルミタージュ美術館サンクトペテルブルク

昼食』(ちゅうしょく、: Завтрак, : The Lunch)は、スペインバロック絵画の巨匠ディエゴ・ベラスケスキャンバス上に油彩で制作した絵画である。『3人の音楽家』 (ベルリン絵画館) 、『農民の昼食(英語版) (ブダペスト国立西洋美術館) とともにベラスケスによる最初期の「ボデゴン」 (厨房画) の1つで[1][2]、彼の修行期の終わりの1617年、あるいは1618年の初めに描かれた。現在、サンクトペテルブルクエルミタージュ美術館に所蔵されている[2][3]

背景

本作はボデゴンとして分類される絵画である。ボデゴンとは、人物と静物を厨房や台所の場で描いた写実主義的な風俗画 (純粋な静物画を指すこともある) である[4]。17世紀初頭のスペインに新たに登場したジャンルの絵画で、16世紀後半のフランドル絵画にその先例を見出すことができる。イタリア出身の画家で、スペインで制作したビセンテ・カルドゥーチョは、自身の著作『絵画問答』において、16世紀のイタリアの理想主義的で観念的な絵画と比較して、ボデゴンの卑俗な同時代性と理想化を拒む現実主義は「低俗で破廉恥極まりないもの」で、高潔な芸術を卑しい概念にまで堕落」させたと厳しく批判している[5]

ベラスケスは1617年、18歳の時にセビーリャで師事していた画家フランシスコ・パチェーコから画家として独立したが、ボデゴンの創始者の1人としてこの新しいジャンルを流行させたようである。しかし、それだけに上記のような批判にもさらされたのである[1]。一方、ベラスケスの師であっただけでなく岳父でもあったパチェーコは、自身の著作『絵画芸術』において「この分野 (ボデゴン) において彼に並ぶものはいないまでに傑出した私の娘婿 (ベラスケス) のように描けば」、それは「自然の真なる模倣」として「最大の称賛に価する」と絶賛している[5]

作品

本作は、ベラスケスの最初期の作品と見なされるものである。最初期の作品としては、他にブダペスト国立西洋美術館にある『農民の昼食』と絵画館 (ベルリン) にある『3人の音楽家』が挙げられる。これらの作品については、ベラスケスの作品ではないと考える研究者もいる。資料的な裏付けがないこれらの作品は、ベラスケスのセビーリャ時代 (1618-1623年) に制作されたと思われる20点あまりの作品の中で様式的にも雰囲気的にも特異なものだからである[1]

ベラスケスは、自身の絵画で大量の食糧ではなく、普通の人々の倹しい食事を描いた。彼の「ボデゴン」に登場するのは、ニンニク、魚、卵、オリーブ、ナス、チーズ、自家製のワイン、少しの果物などの食品と、すり鉢、ボール、陶器の水差しなどの台所用品である[2]

本作は、異なった年齢の3人の人物たちの個性的な描写に注意を向けており、彼らは半身像、または4分の3の身体像で表されている。構図は人物たちの頭上からの視点で、彼らの表情豊かな顔と手、テーブルクロス、質感豊かな食べ物と飲み物を示している。特に、皺のあるテーブルクロス、ワイングラスやパン、ナイフの的確な表現には、画家がもって生まれたリアルな眼と自然主義が現れている[3]。食卓を囲んでいるのは老人 (左側) と青年 (右側) で、背後にはワインの入ったガラス瓶を持つ、明らかに屈託のない少年が描かれている。右側の笑顔の男性は「サムズアップ」の仕草をしているようである。背後の壁には白い襟巻、革の鞄が掛けられており、右側には剣がある。

『昼食』は、ベラスケスの別の絵画『農民の昼食』 (ブダペスト国立西洋美術館) とほとんど同じである[2]

本作は、2019年2月2日から8月25日にアムステルダムハート美術館(英語版)で開かれた「De Schatkamer!展」の一部であった「朝食展 (The Breakfast)」に出品された。

ギャラリー

  • ディエゴ・ベラスケス『3人の音楽家』(1617-1618年ごろ) 96 cm × 112 cm、ベルリン絵画館
    ディエゴ・ベラスケス『3人の音楽家』(1617-1618年ごろ) 96 cm × 112 cm、ベルリン絵画館
  • ディエゴ・ベラスケス『農民の昼食(英語版)』(1618年ごろ) 96 cm × 112 cm、ブダペスト国立西洋美術館
    ディエゴ・ベラスケス『農民の昼食(英語版)』(1618年ごろ) 96 cm × 112 cm、ブダペスト国立西洋美術館

脚注

  1. ^ a b c カンヴァス世界の大画家 15 ベラスケス 1983年、77頁。
  2. ^ a b c d “Breakfast”. Web Gallery of Artサイト (英語). 2024年1月27日閲覧。
  3. ^ a b NHK エルミタージュ美術館 3 近代絵画の世界、1989年、156頁。
  4. ^ カンヴァス世界の大画家 15 ベラスケス 1983年、78頁。
  5. ^ a b 大高保二郎・川瀬祐介 2018年、8-9頁。

参考文献

外部リンク

  • Web Gallery of Artサイト、ディエゴ・ベラスケス『昼食』 (英語)
ボデゴン

『3人の音楽家』(1617-1618年)  · 『昼食』(1617-1618年)  ·卵を調理する老女』(1618年)  ·セビーリャの水売り』(1620年頃)

宗教画

『無原罪の御宿り』(1618-1619年)  · 『パトモス島の聖ヨハネ』(1618-1619年)  · 『マルタとマリアの家のキリスト』(1618年)  · 『東方三博士の礼拝』(1619年) ·キリスト教の魂により見つめられるキリスト』(1628-1629年)  ·ヨセフの衣を受けるヤコブ』(1630年)  · 『十字架上のキリスト』(1631-1632年)  · 『聖トマス・アクィナスの誘惑』(1632年)  ·聖アントニウスと隠修士聖パウルス』(1634年頃)  · 『聖母戴冠』(1635-1636年)

歴史画・神話画

バッカスの勝利』(1628-1629年頃)  ·ウルカヌスの鍛冶場』(1630年)  ·ブレダの開城』(1634-1635年)  · 『軍神マルス』(1638年頃)  · 『イソップ』(1639-1640年)  · 『メニッポス』(1639-1640年)  ·鏡のヴィーナス』(1647-1651年頃)  ·アラクネの寓話』(1657年頃) · 『メルクリウスとアルゴス』(1659年頃)

王家の肖像画

『フェリペ4世 (1623年)』(1623年)  ·ドン・カルロス親王の肖像』(1626-1627年)  ·ハンガリー王妃マリア・アンナの肖像』(1630年頃)  ·茶と銀の装いのフェリペ4世』(1631-1632年)  ·皇太子バルタサール・カルロスと小人』(1632年)  ·狩猟服姿のフェリペ4世』(1632-1634年)  ·狩猟服姿の枢機卿親王フェルナンド・デ・アウストリア』(1632-1634年)  ·皇太子バルタサール・カルロス騎馬像』(1635年)  ·狩猟服姿の皇太子バルタサール・カルロス』(1635-1636年)  ·フェリペ4世騎馬像』(1635-1636年頃)  ·フラガのフェリペ4世の肖像』(1644年)  · 『王妃マリアナ・デ・アウストリア』(1652-1653年)  · 『マリア・テレサ王女』(1652-1653年)  · 『フェリペ4世 (1653年)』(1653年頃)  ·ピンクのドレスのマルガリータ王女』(1653-1654年)  ·ラス・メニーナス』(1656年)  ·皇太子フェリペ・プロスペロの肖像』(1659年)  ·青いドレスのマルガリータ王女』(1659年)

王家以外の肖像画

修道女ヘロニマ・デ・ラ・フエンテ』(1620年)  ·ドン・ルイス・デ・ゴンゴラの肖像』(1622年)  ·ドン・フアン・マテオス』(1632-1633年頃)  ·道化ドン・フアン・デ・アウストリア』(1632-1633年頃)  ·道化バルバローハ』(1633年)  ·フアン・マルティネス・モンタニェースの肖像』(1635年頃)  ·道化パブロ・デ・バリャドリード』(1635年頃)  · 『男性の肖像』(1635年頃)  ·オリバーレス伯公爵騎馬像』(1636年頃)  · 『オリバーレス伯公爵ガスパール・デ・グスマン』(1636年頃、または以降)  · 『オリバーレス伯公爵の肖像』(1638年頃)  · 『道化カラバシーリャス (プラド美術館)』(1635-1639年) ·道化ディエゴ・デ・アセド』(1640年頃) · 『扇を持った女性』(1637-1640年頃)  · 『お針子』(1635-1643年)  ·道化セバスティアン・デ・モーラ』(1644年頃) ·バリェーカスの少年』(1635-1645年)  ·フアン・デ・パレーハの肖像』(1650年頃)  ·インノケンティウス10世の肖像』(1650年頃)

風景画

『ヴィラ・メディチの庭園、ローマ』(1630年頃)