不足角

不足角(ふそくかく)とは、ユークリッド幾何学においては、多面体のある頂点について、その頂点の周りの角度の和が360°に不足していることを言う。あるいはより一般に多胞体について、胞のピークの二面角が真円に足りないものを言う。

全ての面が正五角形からなる正十二面体を考える。各頂点について正五角形が3つずつ集まり、正五角形の内角は108°だから、不足角は 360° − (108° + 108° + 108°) = 36° である。また頂点は全部で20個あるから、不足角の総和は 36° × 20 = 720° である。

他の正多面体についても同じ考え方を適用すれば、以下の表を得る。

正多面体 頂点数 1つの頂点に集まる図形 不足角 不足角の総和
正四面体 4 3つの正三角形 π   ( 180 ) {\displaystyle \pi \ (180^{\circ })} 4 π {\displaystyle 4\pi \,}
正八面体 6 4つの正三角形 2 π 3   ( 120 ) {\displaystyle {2\pi \over 3}\ (120^{\circ })} 4 π {\displaystyle 4\pi }
立方体 8 3つの正方形 π 2   ( 90 ) {\displaystyle {\pi \over 2}\ (90^{\circ })} 4 π {\displaystyle 4\pi \,}
正二十面体 12 5つの正三角形 π 3   ( 60 ) {\displaystyle {\pi \over 3}\ (60^{\circ })} 4 π {\displaystyle 4\pi \,}
正十二面体 20 3つの正五角形 π 5   ( 36 ) {\displaystyle {\pi \over 5}\ (36^{\circ })} 4 π {\displaystyle 4\pi \,}

デカルトの定理

不足角におけるデカルトの定理(: Descartes' theorem on total angular defect)とは、球と位相同型な、つまり穴のない多面体において、不足角の総和は常に 720°( 4 π {\displaystyle 4\pi } )に等しいという定理である(上表も参照)[1]

より一般には、多面体のオイラー標数 χ = 2 2 g {\displaystyle \chi =2-2g} (ここで g は「穴の数」を表す)を用いて、不足角の総和は 2 π χ {\displaystyle 2\pi \chi } で表される。

これはガウス・ボネの定理においてリーマン多様体が多面体であるときの特殊なケースであり、不足角はその頂点におけるガウス曲率に一致する。このとき多面体中のガウス曲率は頂点に集中しており、辺や面におけるガウス曲率は 0 となっている。

非ユークリッド幾何学における不足角

双曲三角形において、その角度の総和を A とすれば、全不足角は π A {\displaystyle \pi -A} で表される。

また球面三角形において、その角度の総和を A とすれば、全不足角は A π {\displaystyle A-\pi } で表される。

特筆すべきこととして、これらの三角形の面積はその全不足角[2]に比例することが示される。

関連項目

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不足
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脚注

  1. ^ Descartes, René, Progymnasmata de solidorum elementis, in Oeuvres de Descartes, vol. X, pp. 265–276
  2. ^ 球面三角形の場合は球過量 (Spherical Excess) と称され、この量が球面三角形の面積に関係している事実はアルベルト・ジラール(フランス語版、英語版)が彼の著書 Invention nouvelle en l'algebre において述べている。

関連文献

  • Richeson, D.; Euler's Gem: The Polyhedron Formula and the Birth of Topology, Princeton (2008), Pages 220–225.
    • デビッド・S.リッチェソン『世界で二番目に美しい数式(上)』『同(下)』根上生也訳、岩波書店、2014年、頁未確認。

外部リンク

  • Weisstein, Eric W. "Angular defect". mathworld.wolfram.com (英語).